大判例

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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)2316号 判決

国民金融公庫

原告国民金融公庫は昭和二十八年六月八日訴外亡星野保次郎に対し金二十万円を貸し付けたが、その際被告小椋芳衛は右保次郎を代理人として同日原告との間に、右債務につき連帯保証契約を締結した。ところで、主債務者保次郎も、連帯保証人小椋も第一回の弁済期である昭和二十八年七月二十日に支払うべき割賦金の支払を怠り、期限の利益を失つたが、保次郎は昭和二十八年十月三十一日、金九千五百円を原告に弁済したので、原告は内金五千円を元金に、内金二千三百五十六円を昭和二十八年六月八日から同年七月二十日までの利息に、内金二千百四十四円を昭和二十八年七月二十一日から同年八月十二日までの遅延損害金に充当した。その後保次郎は昭和三十一年七月三十一日死亡した。被告星野まさみは保次郎の妻であるが、保次郎の子である訴外浦井トシ子及び重田百合子とともに、相続により右債務を承継した。この相続により同被告は右残債務全額について債務を負担するに至つたものである。何となれば、被相続人の全財産を引当にして来た債務者が、相続開始の一事で債権を分割され、相続人中の無資力者から弁済を受けることができぬという結果に追いやられることは不合理であり、相続分は、債務の相続承継の点に関する限り、共同相続人相互間における求償権の問題として内部的にのみ意味を有するものと考えなければならないからである。よつて原告は、被告らに対し、残元金十九万五千円と、これに対する遅延損害金の連帯支払を求める、と主張した。

被告小椋芳衛は原告主張の事実を否認し、本件貸付金借用証書(甲第一号証)中借用金額欄の記載を除くその余の部分が真正にできたことは認めるが、右借用金額欄の記載が真正にできたことは否認する。本件借入申込書(甲第二号証)中被告小椋作成名義の部分が真正にできたことは否認する、と述べた。被告星野まさみは現在住居不明で、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

証拠によれば、昭和二十八年六月頃、被告小椋は、星野保次郎から同人が原告から借り受ける金十万円について保証をして貰いたいと頼まれてこれを承諾し、原告との間に連帯保証契約を締結することの代理権を保次郎に与え、そして保次郎の妻が持参した貸付金借用証書(甲第一号証)をその十万円の借用証書とのみ思い込み、内容を検討することなく同証中の小椋名下に甥の榎本和雄をして同被告の印を押させたことが認められる。

しかし、被告小椋が右の十万円の限度をこえて保次郎の原告に対する二十万円の借受金債務全額について連帯保証をすることを承諾し、その契約締結の代理権を保次郎に与えたことは、甲第一、第二号証のほか、これを認めることができる証拠はない。

ところで、本件借入申込書(甲第二号証)については、被告小椋本人の供述によると、同証中被告小椋の氏名の横にある「小椋」という印影は被告小椋の印によるものであることが認められるが、同証中借入申込金額「五拾万円」の部分その他ペン書きの部分のほとんど全部が始め鉛筆で書きその上をペンで書き直したものであることと、被告小椋本人の供述とを合せ考えると、どのような機会に被告小椋の前記印が押されたかは必ずしもはつきりしないが、少なくも被告小椋が申込金額「五拾万円」その他の部分を承知のうえで右の印を押したものではなく、また被告小椋が同証に署名したものでもないことが認められる。

すなわち、被告小椋が十万円の限度をこえて保次郎の原告に対する二十万円の借受金債務金額について連帯保証をすることを承諾し、その契約締結の代理権を保次郎に与えたことは、これを認めることができない。

しかし、他の証拠と弁論の全趣旨とを合せ、甲第一、二証と対照して考えると、さらに次のとおり認めることができる。すなわち、星野保次郎は、昭和二十八年五月上旬、連帯保証人小椋芳衛とある横に被告小椋の印が押してある五十万円の借入申込書を原告に提出して借入の申込をした。これに対し原告は二十万円だけ貸付けることを決定した。そこで保次郎は、連帯保証人小椋芳衛名下に被告小椋の印を貰つた貸付金借用証書の借用金額欄に「弐拾万円也」と記入し、これを被告小椋の印鑑証明書とともに原告に差入れ、被告小椋に代つて二十万円につき連帯保証の意思表示をして、金二十万円を原告から借り受けた。原告は、右のとおり書類がととのつており、甲第一、二号証の被告小椋名義の印影と甲第四号証の印鑑証明書の被告小椋の印影とが同一であつたので、被告小椋が真に二十万円全額について連帯保証を承諾したものと信じて金二十万円を保次郎に貸し付けた。

このように認めることができる。

星野保次郎が、十万円の限度をこえ、二十万円について被告小椋に代つて連帯保証をする旨の意思表示をしたことは越権行為には相違なく、被告小椋から責められなければならないが、しかし、原告との関係のことは、また別に考えなければならない。保次郎は前記各書類を出して被告小椋に代つて二十万円につき連帯保証人の意思表示をしたのであるから、原告が、これらの書類によつて、二十万円全額について被告小椋に代つて連帯保証をする権限が保次郎にあると信じたことはもつともであるといわなければならない。従つて、被告小椋は保次郎の前記借受金二十万円全額について連帯保証人としての責に任じなければならない。

次に、証拠によると、保次郎は昭和三十一年七月十八日死亡し、その妻である被告星野まさみ、子である浦井トシ子、重田百合子の三名が相続したことが認められる。

原告は、相続人が数人である場合においても各相続人は被相続人の債務全額を承継すると主張して、その理論を展開している。原告の見解には傾聴すべきものがあり、たしかにこの問題に関する有力な考え方であるといえる。しかし、当裁判所は、やはり、数人の相続人は、各自相続分の割合に応じて分割された債務を承継するという、従来多くの裁判所が従つてきた見解に賛成する。ところで、被告まさみの相続分は三分の一である。従つて、同被告は保次郎の前記債務の三分の一を承継したものといわなければならない。

以上のとおりであるから、原告に対し、被告小椋は、残元金十九万五千円及びこれに対する遅延損害金を、被告星野まさみは、右の三分の一を支払わなければならない。よつて、原告請求は右の限度で正当であるからこの部分を認容し、被告星野まさみに対するその余の請求は失当であるとしてこれを棄却した。

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